小春日和


「ここに座るか。」
そう言って、勝真さんは草の上に座り込んだ。
「駄目ですよ勝真さん。服が汚れますから、シートひくの手伝ってください。」
そう言って私は持ってきた鞄の中からシートを取り出し、
大きな木の陰が出来ているあたりに引いた。
春の心地よい休日。
今日は天気がいいので、二人で近くの公園に来ている。
この公園はとても広く、休日には親子連れや、恋人同士などがそれぞれの時間を過ごしている。
私たちはこの場所が気に入っていて、よく来ている。
シートを広げた私たちは、隣あって座って周りを眺めている。
「やっぱりここにして正解だったな。のんびり出来て気持ちがいい。」
勝真さんは、体全体を伸ばしながらそう言った。
私も、思い切り息を吸い込んで、新鮮な空気を体の中に入れた。
小春日和で暖かく、時より涼しい風が頬を掠めていく、
散歩したり、こうしてのんびりするには最高の天気だ。
何年か前に勝真さんと結婚して、幸せな日々を過ごしている。
休日はこうして二人でいろいろなところへ行き、のんびりすることが多かったが、
最近はご無沙汰ので、なおさら花梨は楽しかった。


「調子はどうだ。」
勝真さんが心配そうにこちらを見た。
「大丈夫です。今日は調子がいいです。」
「無理するなよ。具合が悪くなったらすぐに言えよ。」
そう言って勝真さんは私の頬に暖かい手を添えた。 
「大丈夫ですよ、病気じゃないですから。」
そう言いながら、私は自分の少し大きくなっているお腹を見ながら手をそえた。
そう私のお腹の中には、勝真さんと私の赤ちゃんがいる。
初めての妊娠につわりのせいか、最近外出することが減っていたのだが、
たまには気分転換しようと、勝真さんが誘ってくれた。

赤ちゃんが生まれてくるのは、生まれてくるのは丁度私達が出会った季節。
赤ちゃんが授かったと知ったときは、喜びはあったが実感が湧かなかった。
でも、時間が経つにつれて、少しずつ大きくなってくるお腹を見ていると、
ここに小さな、けれど確かな命が宿っているのだという、愛おしさがこみあげてきた。
「まだ信じられない時がある。俺が父親になるなんて」
そう言って勝真さんは、私の頬に添えていた手を、ゆっくりと私のお腹に添えた。
「勝真さんは、素敵なお父さんになります。」
私が勝真さんの方を見ながらいうと、
「そうかな?正直、時々俺は自信がなくなる時があるよ。」
不安そうな表情で勝真さんが答えた。
「勝真さんは、人の辛さとか悲しさとか強さとか、色んな気持ちがわかる人です。だから大丈夫です。
もうすぐ生まれてくる、私達の赤ちゃんを大切に思ってくれたらそれでいいんです。」
そう言って私は、さっき勝真さんがしてくれていたように、彼の頬に手をそえた。
私達が出逢った京の都で、千歳さんやイサトくんの事で色々悩んだりしていた。
その分、人の辛さや悲しさが理解できて、反対に優しさや愛情を沢山持っている人だ。

「なんだか眠くなってきました。」
勝真さんの気分を変えたくて、唐突にそんな事を言ってしまった。
すこしびっくりした表情の勝真さんも、しばらくするといつもの穏やかな表情にもどってきた。 
「じゃあ、横になれよ。」
そう言って勝真さんは、私を横にしながら私の頭を膝の上にのせようとした。
「勝真さん!!」
私はびっくりして起きようとしたが、勝真さんはそれを止めて私の頭に手をのせてなでてくれた。
「たまには、こういうのもいいだろ?」
そう言って勝真さんは、私の頭をなでながら楽しそうに言った。
私が勝真さんに膝枕することはあったが、勝真さんに膝枕をしてもらったのは始めてだった。
「勝真さん、気持ちいいです。」
私は、恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちがいりまじって答えた。
「今まで俺の大切な存在はお前一人だった、けどこれからは守らなければいけない存在が、
もう一人増えるんだな。」
勝真さんは、愛おしそうに私の頭をなでながら遠くを見つめて呟いた。

勝真さんに膝枕をしてもらっていると、
本当に眠くなってきた。
「勝真さん、本当に眠くなってきました。」
「大丈夫だ。花梨が起きるまでこうしててやるから。」
そう言って、頭をなで続けてくれた。
勝真さんの手の感触が気持ちよくて、私はそのまま眠りの中に引き込まれていった。

私は夢を見ていた。
私と勝真さんそして生まれてくる赤ちゃんと一緒に、この公園でピクニックをしている夢を見た。
三人ともとても楽しそうにお弁当を食べたり、遊んだりしていた。
私は、とても幸せな気分に満ちていた。

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始めに浮かんだのは、
「二人で公園でピクニック・花梨の膝枕で眠る勝真さん」
だったのですが、いつの間にかこんな話になってしまいました。
でも、休日をのんびり過ごす二人は表現できたかな?
私の中の設定としては、「Destiny」の2・3年後くらいです。
読んだ感想など戴けたら嬉しいです。
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